通信大学用ブログ

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カテゴリ:英語 > ヘミングウェイ『Cat in the Rain』



『Cat in the Rain』by Ernest Hemingway ⑤

彼女は化粧台に手鏡を置いて、窓のところまで行って外を見た。暗くなりかけていた。

「私、髪を後ろに持って行って、ピッタリと滑らかに、大きなシニヨンを作りたいの、触ったら感じられるような」彼女は言った。「子猫が欲しいの。膝に座って、撫でたらゴロゴロと喉を鳴らして欲しいの」

「そうかい?」ジョージはベッドから言った。

「それから、銀の食器で食べたいし、ロウソクも欲しいわ。季節は春がいいわ、鏡の前でブラッシングがしたいのよ、それから子猫が欲しいし、新しい服が欲しいわ」

「おいおいもうやめろよ。何か読んだらいい」ジョージは言った。また本を読んでいた。

妻は窓の外を眺めていた。外はすっかり暗くなっていて、ヤシの木にまだ雨がかかっていた。

「とにかく、私は猫が欲しいの」彼女は言った「猫ネコねこ!今!今髪を長くして楽しめないって言うんなら、ねこを飼ったっていいと思うわ」

ジョージは聞いていなかった。本を読んでいた。

妻は、窓から外を眺めていた。広場にはあかりが灯っていた。

誰かが、ドアをノックした。

「お入り」ジョージが言った。彼は本から顔を上げた。

入り口に、メイドが立っていた。

彼女は「大きな三毛猫」を持っていた。自分にしっかりと押し付けるように、そしてメイドの体にぶら下がっていた。

「失礼いたします」と彼女は言った「オーナーが、この猫を、シニョーラに、お持ちするようにとのことでございます」 



『Cat in the Rain』by Ernest Hemingway ④

夫人とメイドは砂利道を引き返して、ドアをくぐった。

メイドは外で傘を閉じた。

女がオフィスを通り過ぎる時、ホテルのオーナーがデスクからお辞儀をした。

彼女の体の中で、何かとても小さくて、キュッとなるようなものが感じられた。

オーナーが自分のことをとても幼くて、そして同時にとても重要な存在であるかのように感じさせた。
オーナーのせいで、自分は幼くて、そして同時にとても重要な存在であるかのように感じられたのだった。

彼女は、自分がとても重要な存在であるかのような、つかの間の感覚を抱いた。

彼女は階段を上がっていった。自分の部屋のドアを開けた。ジョージはまだ本を読んでいた、ベッドの上で。

「猫を捕まえたのかい?」彼は本をおいて言った。

「いなくなっていたわ」

「どこかに行ったんだろうと思うよ」彼は言った、読書から目を休ませて。

妻はベッドに腰掛けた。

「とってもあの猫が欲しかったのよ」彼女はいった「どうしてあの猫をそんなにも欲しかったのかわからないけど。あの可哀想な子猫が欲しかったのよ。雨の中で子猫が外にいるなんて、ちっとも面白くないわ、いいことじゃないわ」

ジョージはまた読書に戻っていた。

妻は部屋を横切って化粧台の鏡の前に座った。そして手鏡で自分の姿を見ていた。彼女は自分の横顔をじっくり見た。最初に片側、そして反対側も。それから、後頭部と首のあたりも。

「髪を長くしたらいいと思わない?」自分の横顔を見ながら言った。

ジョージは、少年のように刈り上げてある、妻のうなじを見た。

「今のままがいいよ」

「もうこれには飽きたわよ」彼女は言った「男の子みたいに見えるのはもう飽き飽きなのよ」

ジョージはベッドで姿勢を変えた。彼は彼女が話し始めたときから視線を外すことはなかった。

「とっても素敵だよ」と彼は言ったのだった。 



『Cat in the Rain』by Ernest Hemingway ③

彼女は、ホテルのオーナーを好ましい人物だと思っていた、そう思いながらドアを開けて、外を見渡した。
雨は一層強く降っていた。

ゴムのカッパを着た男が空っぽの広場を渡って、カフェの方に向かって来ていた。

あの猫は、右手の方にいるだろう。多分ひさしに沿って行けるだろう。

入り口の方で立っていると、彼女の背後で傘が開いた。

夫婦の世話をするメイドだった。

「濡れるといけません」と彼女は笑いながらイタリア語で言った。

もちろんのこと、ホテルのオーナーが彼女を差し向けたのだった。

傘を彼女の上にさしかけながら、持っている状態で、妻が砂利道を自分たちの部屋の下に着くまで歩いて行った。

テーブルはそこにあった。雨に濡れて鮮やかな緑色を放っていた。だが、猫は去っていた。

妻は急に失望感を覚えた。

メイドは彼女を見上げた。

「何か無くされたのですか?」

「猫がいたのよ」と若いアメリカの娘が言ったのだ。

「猫でございますか?」

「そうよ、猫がいたの」

「猫ですか?」とメイドが笑った。「この雨の中、猫ですか?」

「そう、そこのテーブルの下に」

そして、こう言った。「あぁあの猫が欲しかったの。子猫が欲しかったのよ」

妻が英語を話すと、メイドの顔が怖がった。

「行きましょうシニョーラ」とメイドが言った。「中に戻らなくてはいけませんわ、濡れてしまいます」

「そうね」と若いアメリカ娘は言った。 



『Cat in the Rain』by Ernest Hemingway②


アメリカ人の妻が、窓際に立って、外を眺めていた。

その窓の真下、雨の雫が滴り落ちている緑のテーブルの下に、猫が一匹うずくまっていた。

猫は体を小さくして雫がかからないようにしていた。

下に行ってあの子猫を連れてくるわ」とアメリカ人の妻が言った。

「僕が行くよ」ベッドから夫が言った。。

「いいえ、私が行くわ。可哀想なあの猫ちゃん、テーブルの下で濡れないようにしてるわ」

夫は読書を続けた。ベッドの裾の方で二つの枕を支えにして、寄りかかったままで、読書を続けていた。

「濡れないようにするんだよ」と夫が言った。

下に降りて行った。アメリカ人の女が事務室を通り過ぎるその時に、ホテルのオーナーが立ち上がって、一礼した。

事務室の奥に彼のデスクがあった。

オーナーは年老いていて、かなり背が高かった。

「雨が降っていますわね」と妻が言った。

彼女はそのホテルのオーナーのことを気に入っていた。

「奥様、酷い天気ですね」

薄暗い部屋の奥にあるデスクの後ろに彼は立っていた。

妻は彼のことが好きだった。

妻は彼がどんな苦情も受け入れる恐ろしく真面目な真剣な様子が好きだった。

彼の威厳が好きだった。彼女は、彼が彼女のために働いてくれようとするところが好きだった。

自分がホテルの経営者として自覚している様子が気に入った。彼女は彼の年齢を重ねたヘヴィなフェイスと、大きな手が好きだった。 



『Cat in the Rain』by Ernest Hemingway

ヘミングウェイの『キャット・イン・ザ・レイン』という短編です
ヘミングウェイ(1899ー1961)愛用の猟銃で自殺
ハードボイルド、固ゆで卵、が転じて感傷や恐怖などの感情に流されない、精神や肉体も強靭な、妥協しない人間の性格を表す言葉となった。
それがさらに文芸用語として、自分の生き方、主義を貫く強い男を主人公にした小説をハードボイルドというようになった。

ホテルに滞在しているアメリカ人はたった二人だけだった。
二人のアメリカ人は、自分たちの部屋の行き帰りに、階段ですれ違う人の中に、知っている人は誰もいなかった。

二人の部屋は2階にあって、海に面していた。

その部屋はさらに、公園と戦争記念碑にも面していた。公園には、大きなヤシの木と緑色のベンチもあった。

天気が良いと、いつも、誰かイーゼルを持った画家がいた。
その絵描き達はヤシの木が茂っている様子と、海に面しているホテルの明るい色合いを好んだ。

イタリア人が遠く離れたところからやってきて、戦争の記念碑を見上げた。
記念碑はブロンズでできていて、雨にぬれて光っていた。

その日は雨が降っていた。

雨がヤシの木から滴り落ちていた。

砂利道には、いくつかの水たまりができていた。

海では、波が、雨の中で、長い一列になって、砕け、そして、浜辺を滑るように後退した。雨に打たれながら、寄せては、また長い一列になって、砕けていた。

車は、皆、記念碑のそばの広場からいなくなってしまった。

広場の向こうにある、カフェの入り口にはウェイターが一人立って、空っぽの人気のない広場を見ていた。 

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