通信大学用ブログ

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カテゴリ:英語 > サマセットモーム『The Luncheon』


安永 義夫
金星堂
1995-01

『The Luncheon』by Somerset Maugham ⑧

「あら、たくさんお肉を召し上がられたので、もうお腹いっぱいになったようね」ーー私の皿の上には一切れぽっちの僅かながらの肉が残されていた。ーー「だからこれ以上食べないのね。私はほんの少ししか食べていないから、これから桃をいただくわ」

勘定書が来て、そしてその支払いをしようとしたときに、自分はチップにするに関しては足らないわずかなお金しか持っていなかったことに気が付いた。
彼女は、私がウェイターに残してやったチップの3フランをほんの一瞬じっと見た。私をケチだと思ったに違いない。
レストランを歩いて出るときに、まだ丸々一月あるのにもかかわらず、ポケットには1ペニーも無い状況になった。

「私を見習えば、」握手をしているときに彼女は私に言った。「昼食には一品だけを食べるのが良いわよ」
「僕はもっと良いことをするよ」私は言い返した。「今日は晩飯を食べないさ」
「面白いわ!」彼女はタクシーに乗り込みながら、嬉しそうに大きな声で笑いながら言った。「あなたってほんとうに面白いのね」

しかし、ついに雪辱の機会を持てるようになったのだった。
私は決して自分が執念深い人間では無いと思っている。だけれども、不滅の神が、復讐に参加するとしたら、復讐の結末に自己満足を持って観察をすることを、自分に容赦することができるのだ。
本日、彼女の体重は127キロになっている。(6.35キロの石21個)one stone = 14 pounds = 6.35キロg 


安永 義夫
金星堂
1995-01

『The Luncheon』by Somerset Maugham ⑦

「コーヒーはいかが?」私は言った。
「ええ、アイスクリームとコーヒーだけ」彼女は答えた。
私はもうどうでも良い気持ちになっていて、なので、コーヒーを自分自身に、アイスクリームとコーヒーを彼女に注文した。
「ねえ、私これだけは思うんだけど、」彼女はアイスクリームを食べながら言った。「食事を終える際にいつも感じることは、もうちょっとだけ食べられそうってことですわね」

「まだお腹が空いているの?」私は力なく答えた。
「いいえ、お腹なんて減ってないわ。私、ランチは頂かないのよ。私は朝コーヒーを飲んで、それから夕食なのよ。ランチには、一品以外には食べないのよ。これはあなたのために言っていたことよ」
「あぁそうかい」

 それからとんでもないことが起きた。コーヒーを待っている間、わざとらしい顔に、ご機嫌をとるような笑みを浮かべて、ウェイター長が近づいてきた。大きな桃がたくさん入った大きなカゴを持ってきた。
無垢な少女が顔を赤らめた、そんな色を射した桃だった。イタリアの風景画のような、鮮やかな色合いをしていた。しかし、今は桃の季節では無いはずだ?どれだけ高価な桃かは、神のみぞ知る事だった。私も、その桃がどれだけ高いかを知ることになったのだーーほんのすこし経って、私のお客さんが、話し続けながら、何の気なしに上の空で桃を一個手に取ったからです。 


安永 義夫
金星堂
1995-01

『The Luncheon』by Somerset Maugham ⑥

私たちはアスパラガスが調理されるのを待っていた。私は恐怖に襲われた。今やその月の残りのために、いくらお金を残せるかと言う問題ではなくなっていて、この支払いに足りるだけの金を持っているかどうかが問題になっていた。
10フラン足りなくなってしまって、そしてお客からお金を借りざるを得ないことになったら、それは屈辱的だった。
私はそんなこと自分にさせる気になれなかった。
私は自分がいくら持っているかを正確にわかっていた。もし勘定が自分が思っていた以上になっていたのならば、次のようにしようと覚悟に決めていた。まずポケットに手を入れて、大げさな叫び声を上げて立ち上がり、「金をすられた!」と言おうと。
もちろん彼女も支払いするに足るだけの金を持ち合わせていなかったならば、大変なことになるだろう。
そんな時、唯一できることといえば、私の時計を置いていって、「後で支払いに戻ってくるから」と言うことだけだろう。

アスパラガスが現れた。巨大で、瑞々しく、食欲をそそるアスパラガスであった。
【エホバ:旧約聖書、創世記第8章20節ー21節】溶けたバターの匂いが、私の鼻腔をくすぐった。エホバの鼻腔が徳の高いセム人(ユダヤ)の焼いた捧げ物の匂いでくすぐられたように。その遠慮のない女が、アスパラガスを求め、大口いっぱいに頬張って、そして喉に下すのを眺めていた。そして丁寧に愛想よく、私はバルカン諸国で起こっている劇的な事件の状況について語ったのだった。
ついに彼女は食べ終わった。 


『The Luncheon』by Somerset Maugham ⑤

彼女はウェイターにいらないわと軽やかに手をふった。

「いえいえ違うのよ、私は昼食には何も食べないの。たったひと齧りだけなのよ、私はそれ以上は決して食べることは無いし、食べるときには何よりも会話を口実にして食べているの。どう頑張ってもこれ以上は食べられないわーーただし、大きなアスパラガスがあれば別なんだけども。アスパラガスをいくらかいただかずしてパリを去るのは残念だわ」

私の心は沈んだ。店でアスパラガスが売られているのを以前に見たことがあった。それが恐ろしく高価であることを私は知っているのだ。そのアスパラガスを見るや、私の口はつばでいっぱいになったものだった。

「このご婦人が、大きなアスパラガスがあるかどうかをお知りになりたがっているのだが」とウェイターに訊ねた。

私は、ウェイターが「No」と答えるように精一杯努めた。
彼の広く牧師のような顔に嬉しそうな微笑が広がった。私に請け合ってくれたのだ、お店には、驚くほど大きく、素晴らしく、柔らかいアスパラガスがあることを。

「私は全くお腹が減っていないわ」夫人がため息をついた。「あなたがどうしてもって強く言うなら、アスパラガスを食べることなら、気にしないわよ」
私は注文した。

「あなたは召し上がらないの?」
「私はアスパラガスを決して食べないのです」
「わかるは、アスパラガスを好きでない人もいるわよね。いいわね、事実はね、あなたは味覚を台無しにしているのよ、肉だけばかりあなたが食べるから」



『The Luncheon』by Somerset Maugham ④

そして質問が飲み物にうつった。

「私昼食には何も飲まないの」と彼女は言った。

「私も飲まない」と自分もすぐに答えを返した。

「白ワインを除いてわね」と彼女は続けて言った、私が何も言わなかったかのように。「フランスの白ワインは、とても軽いのよ消化にとても良いのよ」

「何が良い?」私は愛想よく、だがそれほど感情を込めずに、訊ねたのだ。

彼女は明るく「友好的な」白い歯を光らせて、笑顔を向けてきた。

「私の医者は、シャンパン以外は飲ませてくれないのよ」

ちょっとばかし、私の顔は青ざめてしまったと思う。私はハーフボトルを注文した。

私の医者はシャンパンを飲むことを、絶対的に禁止しているということを、さりげなく触れたのだった。

「なら、あなたは何を飲むの?」
「水だよ」

彼女はキャビアを食べ、サーモンを食べた。彼女は陽気に、音楽と、文学と、芸術について話した。

しかし私は勘定がどのくらいに達するかが心配であった。

私の羊の骨つき肉が運ばれてくると、彼女は真剣に私を咎めたのであった。

「昼食に重いものを食べる習慣があなたにはあるようね。それは間違いよ。私の例に習って、一品だけ食べたらどうかしら?そうすれば、きっと気分が良くなるわよ」

「私は、一品だけを食べるんだよ」ウェイターがまたメニューを持ってくるときに、言ったのだ。








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