安永 義夫
金星堂
1995-01

『The Luncheon』by Somerset Maugham ⑦

「コーヒーはいかが?」私は言った。
「ええ、アイスクリームとコーヒーだけ」彼女は答えた。
私はもうどうでも良い気持ちになっていて、なので、コーヒーを自分自身に、アイスクリームとコーヒーを彼女に注文した。
「ねえ、私これだけは思うんだけど、」彼女はアイスクリームを食べながら言った。「食事を終える際にいつも感じることは、もうちょっとだけ食べられそうってことですわね」

「まだお腹が空いているの?」私は力なく答えた。
「いいえ、お腹なんて減ってないわ。私、ランチは頂かないのよ。私は朝コーヒーを飲んで、それから夕食なのよ。ランチには、一品以外には食べないのよ。これはあなたのために言っていたことよ」
「あぁそうかい」

 それからとんでもないことが起きた。コーヒーを待っている間、わざとらしい顔に、ご機嫌をとるような笑みを浮かべて、ウェイター長が近づいてきた。大きな桃がたくさん入った大きなカゴを持ってきた。
無垢な少女が顔を赤らめた、そんな色を射した桃だった。イタリアの風景画のような、鮮やかな色合いをしていた。しかし、今は桃の季節では無いはずだ?どれだけ高価な桃かは、神のみぞ知る事だった。私も、その桃がどれだけ高いかを知ることになったのだーーほんのすこし経って、私のお客さんが、話し続けながら、何の気なしに上の空で桃を一個手に取ったからです。